×教育
「本質的な問い」による授業設計-探究学習の創り方。
NPO DNA事務局です。“生き方”の探究学習「ライフデザイン講座」を、5年前から県内の高等学校と連携し、生徒とともに学びを深めてきました。授業を受け、社会に飛び出していった生徒は、150名を越えます。現在は、群馬県内外各地で新しい人生のステージを生き、時々後輩の学びの手助けをしてくれたり、近況報告をしてくれます。
この授業は、生徒がおよそ1年間かけて“生き方”に関して、一人ひとりが「問い」を立てて、自ら学びを創り出していく授業です。
【参考記事】“生き方”を探究したその先に-「ライフデザイン講座」報告会
たとえば、国語という教科。
現代文が好きな生徒もいれば、古典も好きな生徒もいる。さらに、現代文の中では特に小説の“羅生門”が好きな生徒もいる。そのように、国語というひとつのカテゴリーの中でも、特に関心のあることは人それぞれ。
それは“生き方”も同じ。関心のあることが、「将来の仕事」「家族関係」「趣味・特技」「社会活動」「過去の経験」とそれぞれです。また、同じことを経験したとしても“見方”も異なります。
それぞれ違う関心がある、ということを前提に、一人ひとりが学んでいきたいと思うことを「問い」を立てて、1年間学んでいきます。
たとえば、これまで授業を通じて生徒自身が立ててきた「問い」は、次のようなものがあります。
【問いの例】
● 本当は湧き出るひとり親家庭の親の気持ちは?
● 人口減少社会における、ライフキャリアはどう描く?
● 仕事と家庭は、どちらを優先すべきか?
● 親との血のつながりは大事なのか?
● “生き甲斐”が人に与える影響と、持つことで生まれる差とは?
● 同性愛の感情を、普通の恋愛の感情と同じだと分かってもらうためには?
● 保育士として子どもがすくすく育つ安全・安心な環境づくりに必要なことは?
この「問い」を立てながら、1年間で学びを創り出していきます。1年間が終わった後には、次のような成長を振り返っていました。
「探究学習」を進めていく上では、生徒に学びの主導権を委ねていくことになります。「この学びは、私が深めてきたことなんだ」という実感は、その後の人生にもつながるはず。しかし、だからといって、初めからすべて“生徒任せ”にするものではなく、そこには綿密な授業設計が存在しています。
授業設計において、授業者である先生含め私たちが大切にしていることは「本質的な問い」を設定できているかどうか。この本質的な問いとは、1年間の授業を通じて「何ができるようになるのか?(資質・能力の育成)」に基づいて、設定するもの。
ライフデザイン講座における本質的な問いは「人生の課題にぶつかった時に、人の手を借りてでも、自ら解決できるようになるか?」とし、授業が始まるオリエンテーションの際には必ず生徒と共有しています。
本質的な問いは、“逆向き設計理論”から採用して行っているものです。
【“逆向き設計理論”とは? byウィキンズ&マクタイ】
生徒に何を身につけさせたいか?という教育の成果から“逆向き”に授業を設計する理論。
通常、年間の授業計画は、どのような順番で何を教えていくのか?という“積み上げ”の発想で行うことが多い。しかし、学年末や卒業時にどのような力を身につけていることを目指すか?(目標)から、授業内容を見直し、設計していくもの。この理論においては、「①求められている結果(目標)」、「②承認できる証拠(評価方法)」、「③学習経験と指導(指導の進め方)」を三位一体で計画することを提唱している。
本質的な問いを設定し、実際の授業を行うためには、幾度となく先生方との打ち合わせを重ねます。
もちろん授業を設計しても、毎年、毎回、生徒の様子は異なるために修正が必要。「生徒自身が学ぼうと思えるか」「生徒自身が学んでいるか」という観点を基に、毎回の授業を進めています。
年間計画としては、「発見」「探究」「発見」の3つのステップで授業構成しています。
ステップ1は「発見」です。自ら探究したい問いを「発見(見出す)」していくステップ。このステップでは、大きく2つのことを発見していくことが目標です。
一つ目の発見は、「自分の中にある多様性」。
「自分の中にある多様性」とは、自分の意見や考えにおいて白か黒かとはっきりしていない曖昧なことが存在することを理解し、受け入れていくことです。
たとえば普段の生活において「今日のご飯は、和食にしよう。でも、パスタも食べたいな」という気持ちや考えのグラデーションのことです。「はっきりしない、はっきりできない。けれど、本当にどちらも自分の気持ちである」という自分の中にある多様性。「これについては賛成。でも、賛成の中にも一部反対の箇所がある」ということを理解し、受け入れていく。
そして二つ目の発見は、「周りと自分の考えの違い」。
「自分の中にある多様性」を表現する時、初めて「周りと自分の違い」に気付きます。そんなやり取りを通じて、自分の意見や考えの輪郭をはっきりさせ、違いを明らかにさせます。
違いがあるからこそ、お互いに気付いたことや学んだことを確認できる。
「あの人と私は違うから」と排除することなく、「確かにあの人の言っていることは、この部分には反対だけど、一部は私も賛成」という物事の見方や他者への寛容さ、「そういう捉え方もできるんだ」という新たな学びにもつながる。
「自分の中にある多様性」と「周りと自分の考えの違い」という2つの発見を通じて、自ら立てる「問い」。この「問い」が学びをつくる原動力であり、出発点です。
ステップ2は「探究」です。
自ら立てた「問い」を出発的に、学びを深めていく「探究」のステップです。この「探究」における学び方は多様にあります。
先生から教わる、教科書や本を読む、インターネットで調べる、ワークシートの問題に解答するだけではない学び方。
動画を視聴する、事例を知る、アンケートをとる、インタビューを行う、イベント・行事に出かける、フィールド調査を行う、形にしてフィードバックをもらう、練習する、実験する、スケッチを書く等々・・・。
ライフデザイン講座においては、必ず「インタビュー」を通じて学んでいきます。自ら立てた「問い」に対して、どんなオトナから学ぶのかを見出し、実際にアポイントメントをとって、生徒一人ひとりがインタビューを行います。
この日は、授業の中でオトナにインタビューを行う日。
いくつかのグループに分かれて、「なぜインタビューしたいと思ったのか?」「どんなことを聴きたいのか?」「そこから自分は何を学びたいのか?」についてオトナに説明しながら、進めます。
インタビューを行うためには、練習が必要です。
この日の授業前には、「インタビューをする側によって、学べる内容に差が出ること」を学んでいます。実際のインタビュー内容を紹介した記事を2つ用意し、それぞれを見比べる。どちらがより深い内容なのか、どうしたら深い内容までお話いただけるのか、を生徒自身が考え、必要なことを洗い出します。
もちろんそのような入念の準備をしていても、緊張したり、言葉に詰まったりします。しかし、それでも率直でまっすぐな「学びたい」という思いで、質問し、お応えいただきながら、学びを深めていきました。
ステップ3は「発表」です。深めてきた学びを振り返り、何も知らない第三者に「発表」していきます。
「発表」においては、“誰に向けて発表するのか?”という対象が明確である必要です。当然ながら、自分たちが学んできたことをまるごとすべて発表することは出来ません。だからこそ学んできたことを棚卸し、編集していく。
対象が明確であれば、生徒自身が発表の受け手のことを想像しながら準備に取り掛かることができます。
ライフデザイン講座では、同学年の友達や後輩たち、インタビュー等でお世話になった人たちなどを対象に発表を行ってきました。
発表をし終わっても、学びには終わりがありません。ここまで学んできたことを踏まえて、さらに疑問に思っていることや関心ごとなどを、更なる「問い」を立てて、生徒自ら聴いてくれる人に問います。
その「問い」に応えてくれた内容を収穫しながら、さらに学びを深めていく。
高校生が手にしたものは何でしょうか。当時高校生だった卒業生の彼らに久しぶりに会う中で、彼らが手にしたものは何なのか?と考えると、それは「学び続ける力」ではないかと思います。
「人生の課題にぶつかった時に、人の手を借りてでも、自ら解決できるようになるか?」に対する私たちの一つの答えは、「学び続ける力」を身につけられるかどうかです。
おおよそ、人生の課題にはぶつかる。これは間違いの無いことです。きっと、周りを見渡すと経験したことのない課題にぶつかるかもしれません。その時に、「自ら学びは創れる。創り出してきたんだ」という経験を糧にしながら、高校卒業後も様々な学びを創り出していきながら、課題を乗り越えていくこと。
人生100年時代に突入した時代だからこそ、大人になっても学び続けていくための力を身につけ、社会に飛び立っていける教育環境づくりに、先生方と連携しながらますます取り組んでいきます。
本件に関するお問い合わせは、こちらからお願いいたします。