×10代

どのようにして生徒同士が対話し合う関係になるのだろう?

NPO DNA事務局です。私たちは「社会とのつながり」と「豊かな対話」を軸にした授業を届けています。

新学習指導要領において、“何ができるようになるか?”という「資質・能力」を育成するために必要な学びのあり方を「主体的・対話的で深い学び」とし、“主体的”・“対話的”・“深い学び”が重要なキーワードになっています。それでは「対話的な学び」とは一体何なのでしょうか?

文部科学省・中央教育審議会によると、「対話的な学び」を次の通り、表現しています。

子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める「対話的な学び」。

「未来の教室」では、センパイと生徒による対話を前提にした授業を届けています。しかし、時にその関係を越えて、高校生同士が対話を通じて、学び合う関係を築いて、授業を後にすることも少なくありません。今回は生徒同士がお互いの将来について、対話を通じて深め合った授業の様子についてレポートします。

学びたいと思うことが「ある生徒」も「ない生徒」も―。

この日は、そろそろ本格的に進路を考えていく時期に差し掛かった高校生たちに届ける「未来の教室」。この高校では、AO入試・推薦入試を利用して進学する生徒だけではなく、一般入試を利用して進学する生徒も含めた“全員”が、進路に関する志望理由を自らの言葉で語れる状態を目指しています。

もちろん生徒によって、将来に対してじっくり考えている生徒もいれば、日々の部活動などに夢中になって考える時間がない生徒もいます。生徒一人ひとりによって、“現在地”が違います。

しかし、全体としてのゴールは「全員が志望理由を自らの言葉で語れる状態である」こと。

そこには、志望理由書にキレイにまとまった言葉で見えてくる部分だけではなく、自分の価値観や考えの深いところまで対話を通じて、話し合い、聴き合う。そのやり取りによって、自分や周りに対する新しい気づき、経験に意味をつけることでより前向きな意志にかえていったりと、学びが生まれていきます。

「偏差値でいける学校」「親が言うから」「学費でいけそう」「とりあえず文系大学に進学」という“曖昧な理由”で選択する未来ではなく、自分の正直な気持ちや意志に基づいた理由で選択する未来を創っていてほしい―そんな先生方の想いを起点にした取り組みがされている高校です。

「いまの自分が学びたいと思うことは?」

この日の授業がはじまり、いくつかの小グループに分かれて、生徒がセンパイとともに自己紹介をし、授業のゴールを確認しました。それから生徒が進路に対してどのように考えているのか?についての現状共有です。

【生徒A・B・C・Dの現状】

生徒A:
法学を学んでみたいと思っている。おばあちゃんと刑事ドラマ「相棒」を見るのが好きでその影響で刑事が憧れになって…。それで犯罪心理や刑法に興味をもって法学を学んでみたいなって思った。ただ、実際刑事について調べてみたら、武術ができないとだし、体力も必要。ちょっと私にはそこまでできないなって。だから刑事は憧れだけど、それに関われる仕事をしたいなって思って警察事務になろうと思っている。でも、そうなると、法学学んで仕事に活きるのかな?って最近悩んでて…

生徒B:
看護か、観光。看護は親に勧められてる。ただ自分でも冷静に考えてみると、給料や「手に職」があるのは、大事だと思っている。人と関わることも好きだし。観光は、人を楽しませることが出来るだろうし、関わる人の層も患者さんやご家族だけではないいろんな人に関われると思えている。

生徒C:
わからないけど、経済とか?でもあまり考えたくもない。

生徒D:
情報工学?ってことに興味がある。プログラミングとか・・・。でも社会とのつながりとか、どんな役に立つのか?は全然わからない。

「自分の学びを社会にどう役立てたいか?」

つづいて対話の時間です。生徒A&B、生徒C&Dがそれぞれペアになりました。生徒A&Bは最初にセンパイと対話の時間を過ごし、生徒C&Dは違うセンパイのもとへ行き“語り”を聴きにいっています。

生徒A&Bは、それぞれ学びたいこと、そのきっかけがある程度明確だったため「これまでの自分が考えてことなかった視点で将来について考えてみよう」と声をかけ、対話を進めました。センパイが立てた問いは「学びをどのように役に立てたいか?」

ここでは「社会にどう役立ちそうか?(求められていること)」という問いではなく「社会にどう役に立てたいか?(求めていること)」という問いを意識的に立てました。

生徒自身がすでに学びたいことと学ぶイメージが明確であれば、それぞれの見えている世界の中で「社会に対してどう役に立てたいか?」に更なる前向きな意味をつける。そのための問いが必要でした。

【生徒A&Bが対話を通じて深めたこと(一部抜粋)】

生徒A:
社会に役立つかはわからないし、私自身そこで悩んでる。でも刑法や犯罪心理を学んでその知識をもっているからこそ警察事務の仕事にも役立てられると思う。ただ事務をするだけじゃなくて、知識を活かして刑事さんのサポートしたり、助けになれるように知識を役立てたい。

生徒B:
自分も誰かも笑顔にできるように、学んだことを役立てたい。看護のことを学んだとしたら、専門的な知識はもちろん、患者さんや家族のみなさんが笑顔になるようなコミュニケーションの取り方とか。観光だと、うーん・・・。観光地に訪れる人も、そこに住む人たちも笑顔にできるなるためには・・・とかかな。

どのようにして生徒が対話し合う関係になるのだろう?

つづいて生徒C&Dが、センパイと対話を通じて、進路について考えを深める時間です。

この時間のとき、生徒A&Bから「自分たちがセンパイと対話をして、進路を深められたから、今度は私がセンパイ役になって友だちの進路について一緒に考えていきたい」と一つの提案がありました。

実際に、対話を通じて自分の考えを深める経験を手にした生徒が、対話の行動パターンを学び、実際に違う環境でやってみる。そんな生徒からの提案に、センパイもサポートに入りながら、生徒C&Dの進路について、センパイと生徒A&Bが対話を通じて、ともに考え、ともに学ぶ時間を過ごしていきました。

【生徒Cと生徒Aのやり取り】

● 生徒C:正直、別にないな。

○ 生徒A:(ワークシートを見て)どうしてここには経済って書いたの?

● 生徒C:なんとなく?給料とか安定していたいし。だったら経済かな?って。

○ 生徒A:えー!そっか。文系に進むと、経済って感じなの?理系=理工学、みたいな(笑)どうやって経済学って、みつけたの?

● 生徒C:うーん、やっぱ仕事って給料が大切じゃん。給料、お金とか考えた時に経済・経営とかでてきて。あとは、中学の公民で日本の景気のこととか勉強した時、たのしかったんだよね。

○ 生徒A:確かに給料は気になる(笑)日本の景気のこと、勉強した!

● 生徒C:景気の影響で、自分がもらう給料って左右されるんかな。そしたら、やじゃね?(笑)

(中略)

○ 生徒A:じゃあ、実際に経済を学んだとしたら、どう役立てたいと思う?

● 生徒C:なんだろうね。日本の経済に関われたらいいかな。英語も得意だから海外の人ともつながって、日本の景気がよくなるように役立てられればいいなぁ。

【生徒Dと生徒Bのやり取り】

● 生徒B:どうして情報工学を学びたいと思ったの?ていうか、情報工学って何なの(笑)

○ 生徒D:おれ、ゲームとか好きで。だからゲームとかそういうのに関わる学部ってないかなって思って見つけたのが情報工学。

● 生徒B:え、ゲームつくれるの?学んだら、つくれる感じ?

○ 生徒D:あー、プログラミングとか?ゲームソフトとかってそういうの学ぶとつくれるんじゃないかなって思っていて。

● 生徒B:へー面白いね。ゲームソフトつくりたいってこと?

○ 生徒D:将来はね。

● 生徒B:なんか、具体的につくってみたいゲームってイメージある?

(中略)

● 生徒B:それって情報工学を学んでどう役立てたいかにつながっているんじゃないかな?

○ 生徒D:おー確かに。そう考えると子どもたちが楽しめるゲームソフトつくるための学んでみたいな。ゲームやりすぎ注意!って言われるけど、このゲームやると学べるからたくさんやりなさい!みたいな(笑)

対話し合える関係だからこそ、学び合うことができる。

生徒が様々な事柄で深い学びを実現していくとき、ひとつの支えになるのは、「生徒同士が“対話し合える関係”になれているかどうか」であると、私たちは考えています。

しかし、思春期である生徒には「これは間違っているんじゃないかな」「こんな考え、恥ずかしいな」という意識が働き、なかなか率直に話し合い、聴き合うことを遠慮しがちです。

だからこそ「対話し合える関係」に大切なことは「生徒同士の共通経験」をもつことです。ここでいう「共通経験」は、“対話を通じて、新しい気づきや学びがあった”という共通経験

「言ってよかった」「聴き合うと面白かった」から始まり「自分ひとりで考える以上の気づきや学びがあった」と思える経験によって、日常でもお互いのやり取りによって学び合うことできる。恥じらいや自信の無さを越えたやり取りが始まります。

それは、シンプルに見えて、意外と難しい。

今回の「未来の教室」は、生徒自身が「言ってよかった」「聴き合うと面白かった」という共通体験から生まれる学び合う生徒の姿を垣間見ることができた授業でした。

生徒にとって、「未来の教室」は対話の“最初の入り口”でもあり、“実践の機会”でもあるのかもしれません。センパイとの対話を通じて、生徒自身が“対話のあり方”を“効果”を実感し、それを実践して学び、日常につなげていく。そんなやり取りは、学校を卒業してからもつながる「学びの姿勢」を育むことにつながるものと、私たちは考えています。

 

※記事中の写真は当日の内容とは異なり、生徒のプライバシーに配慮しながら現場の様子を最大限お伝えしております。

 

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