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「自分の気持ちが話せて、なんだか嬉しい。」-中学生に、地元とのつながりを。

NPO DNA事務局です。2018年4月からのおよそ1年間、群馬県富岡市の4校の中学校において、授業「未来の教室」を届けてきました。

2019年1月現在、予定していたすべての授業を届けることが出来ました。
富岡に縁のある延べ100名ほどセンパイが、250名ほどの生徒に携わることができました。本記事では、実際に届けた授業の様子について紹介します。

「立志式」で、大人への誓いを立てる-。

各学校の先生方とそれぞれ2回程度、事前の打ち合わせを行いました。各校、生徒の様子はまるで違いましたが、ほとんどの中学校において儀礼的行事「立志式」に関連して「未来の教室」を届けることに決まりました。

【「立志式」とは?】
現代の元服式と呼ばれる儀礼的行事「立志式」。14歳を迎えた子どもたちに、14歳という年齢の節目に大人としての自覚を持ち、祝う行事のこと。おおよそ2月の初旬頃に行われ、「立志の誓い」として決意発表や書道等の自己表現を行う場合が多い。県内では、昭和40年(1965年)に富岡の隣町である下仁田中学校で取り組まれたのが起源と言われている。

参考:「群馬県中学校における儀礼的行事「立志式」の広がりと取組の実態に関する研究-昭和40年代初期に導入した実践校の取組を中心として-」,2004

群馬県富岡市のすべての中学校では、「立志式」を通じて、生徒自らが自己のあり方・生き方を深く考え、将来に向けた考えを振り返る「総合的な学習の時間」を展開しています。

● 「地元に貢献できるような人になりたい」

● 「大人になってもチャレンジし続けられる人になりたい」

● 「大好きなバスケットを、将来の仕事にしていきたい」

「現在」と「将来」につながりを-。

「未来の教室」を届けるにあたって、先生方と大切にしていたことがあります。それは、生徒が「現在の自分と、将来の自分に“つながり”を見出せるかどうか?」です。

● 「この授業は、自分の将来にどう役立つのだろうか?」

● 「いま頑張っていることは、どんな風につながるのか?」

● 「好きなことは、仕事にできるのだろうか?」

大人になって振り返ってみると、つながっていることがたくさんあることに気付きます。もちろん「バスケットが好きなこと」が、「プロバスケットボール選手」という仕事に直接つながっていく場合もあるでしょうし、直接はつながらない場合もあるでしょう。

しかし、「バスケットが好き」である中学生である現在の自分が経験していることはたくさんある。そんな経験から、生徒は普段から「仲間は大切にしたいな」「(苦手だけど)地道な練習はすごく大切」と感じていることでしょう。

頭でもわかっていても表現しづらかったり、自分でもまだ気付いていないことがある。その後押しには、センパイとの対話が必要です。センパイとの対話を通じて、生徒自身が「大人になっても大切にしたいと思えること」を見出していく。そこに、「未来の教室」を届ける意味がありました。

中学生の“現在”に、ともに向き合う-。

2時間の授業において、生徒が安心して自己表現できる授業になるかどうかは、授業最初のセンパイのあたたかな関わりによって決まってきます。

さあ、授業が始まりました。

生徒とセンパイは、お互いの自己紹介等を通じて、関係を築きます。

「今日の給食、おいしかったよね。私も食べたよ~」

「午前中は、何の授業だった?」

「最近、“あいみょん”流行っているけど、聴いたことある?」

少しずつお互いに関係を築けたところで、違うセンパイの経験談をともに聴きにいきます。

―――「小さい頃から野球一筋。大学4年間以外は、富岡で育ってきた。22歳で働き始めたんだけど、ある時、『富岡は衰退している』と先輩が言っていたのをきいて、何だかすごく悔しい気持ちになったんさ。自分に何ができるかわからないけど『少しでも富岡がよくなるようにやってやろう』って。それから、ようやく富岡が好きだということに気付いた。」

―――「大人になった俺が大切にしたいと思うことは、“しっかりと目の前の人に向き合うこと”。以前、何年も会うことができなかったお客さんに、何度も何度も足を運んで通いつめて、ようやく会うことができたことがあったんだ。気になって「どうして会ってくれたんですか?」と尋ねたら、『あなたが信頼に足る訪問を重ねてくれたからだよ』という言葉をかけてもらってさ。その言葉が忘れられなくて。それから大切にしようって思って。仕事で学んだことなんだ。」

―――「でも・・・振り返ってみるとね、無意識にでも何となく大切だよなって思えたきっかけが、野球部の経験なんだと思う。それまで一緒に頑張ってきた仲間が、ケガをしてしまって高校2年生の秋から試合に出られなかったんだ。そいつは自分がもうケガして試合に出ることは出来ないのに、朝も夜もある練習する俺にずっと付き合ってくれたんだよね。出たくても出られないのに。そして最後の大会、一生懸命頑張ったんだけど、一回戦延長12回で雨のサヨナラ負け。悔しい気持ち一杯で試合から引き上げて、帰りのバスに乗ろうとした時、その仲間がいてさ。一言、『ありがとうな』って声を掛けてくれて。俺は『ごめんな』としか言えなかったんだけど、そいつが俺に向き合ってくれたから頑張れたと心から思えた出来事だった。そんな経験が、大人になった自分にも活きていると思うんだ」

―「さっきの話し聴いてみて、どうだった?」

―「自分もいま野球やっていて、すごくためになった」

―「そうなんだ。いま、どんな風に取り組んでいるの?」

この後に続く、男子生徒から語られた部活動の話。

彼が小学校の時に始めたバスケットボール。そのまま中学の部活動に入部するも、そもそもの人数が少ないために、いつもギリギリの人数で練習。また、自分は小学校からやってきた“経験者”だけど、周りの友達たちは“未経験者”。経験者である彼がいつも仲間や後輩の練習の面倒をみながら、取り組んでいる。試合や大会になると、どうしても仲間がミスをしてしまう時がある。だけれど、それを責めることを彼はしないそうだ。

―――「だって、失敗して当たり前じゃないですか。失敗から成長するし、学べることがたくさんあるし、次につながるし・・・。何より一緒にやっている仲間には、一緒にやってくれてありがとうって思っているから、これからも失敗したって、一緒にやりたいんです」

このような対話を通じたやり取りを2時間、生徒全員と。生徒の“現在”に、センパイはともに向き合ってきました。授業終わりには、フューチャーパスポート(以下、FP)と呼ばれるカードに、生徒自身が気持ちや考えを率直に書き記していきます。

書き記したら、2時間ともに過ごしたセンパイにFPを渡して授業終了。生徒がセンパイと歩きながら、体育館を出て行きました。

生徒自身が書いたFP

先ほどのバスケットボールに取り組む彼のFPには、こんなことを書いてくれていました。

「いつもは考えたりしない、自分の思いとかを初めて分かろうとした。そうしたら、自分の良い所が分かったり、やりたい事やなりたい人、自分の気持ちが話せて分かって楽しいし、なんだか嬉しい。」
また、これからは、良い所をのばして、またさらに良いところができるようにがんばりたいし、人のために何かしたいなあと思うこともできた。

思春期世代である中学生は、自我が芽生え始めていく時期を過ごしています。その時期は、自分の心や考えの変化のスピードに言葉が追いつきにくい。だからこそ、“言葉にならない言葉”を受け止めながら、対話を通じてセンパイとともに言葉にしていく。言葉にしてみて初めて、自分にある“内発的な意志”に気付き、それぞれの歩みを前進させられます。

センパイは、対話を通じて生徒とともに考え、学ぶ存在です。それでは、センパイはどのような研修や準備を重ねてきたのでしょうか?

はじまりは、説明会から-。

センパイの取組のはじまりは、「センパイ募集説明会」の開催からでした。2018年9月4・6日の2日間、平日の夜にも関わらず、2日間で40名近くの方々に参加していただきました。

● 「地元の中学生に役に立ちたい気持ちが強くなりました」

● 「ひとりひとりに様々なストーリーがあって感動しました」

● 「中学生向けにやることだと思っていたけど、自分たちの学びの場でもあると思いました」

● 「想像していたものよりも、難易度が高く感じました」

そんな感想を抱く説明会を経て、仕事等の都合を調整できた方々に、「センパイ登録」をしていただき、実際に授業「未来の教室」を届けるセンパイとしての活動が始まりました。

仕事終わりに集って、「対話」を磨く-。

まずはキックオフとしてオリエンテーションを行いました。富岡に“縁”があるといっても、お互いに初対面の場合もたくさん。知り合いだとしても、普段どんな仕事をしているのか?何故この仕事に就いたのか?を聴き合うことはほとんどありません。

そのような自己紹介を含め、何故富岡において授業「未来の教室」を届けるのか?、思春期世代の中学生の現状は?などを確認し合いました。

オリエンテーションを終えると、毎週開催する「オープンデー」にうつります。オープンデーは、部活動でいう練習日のこと。必ず一度以上は参加することを前提に、生徒との「対話」を磨くためにセンパイ同士が集いました。

「中学生と、普通に話せばいいんでしょう?」と思われがちな対話ですが、実は奥が深く、難しい。

「生徒から何かを引き出していこう」
「生徒に何か教えていこう」

そのような姿勢では決して授業に臨みません。

「目の前にいる生徒に、ひとりの人として関わる」
「ともに考え、ともに学ぶ」

時に耳の痛いフィードバックを受け、時に仕事のあり方を振り返り、センパイがお互いに日常にも活きる対話について追究していきました。

授業当日は、最初から最後まで-。

授業当日は、事前と事後にオリエンテーションを行います。

事前オリエンテーションでは、センパイ同士がそれぞれチームを組み、授業の最終確認を行います。経験者も未経験者も、生徒にとれば“センパイのひとり”。一人ひとりがセンパイとして、生徒ともに考え、学ぶ存在であるために声を掛け合いながら、準備を行います。

授業が始まっても、センパイ同士、先生との連携は欠かせません。

生徒が経験談を聴きに行っている最中に、センパイ同士が集まって生徒の様子の確認をしたり、手伝えるところが必要なところがないかなどを確認し合います。

授業が終わりました。事後オリエンテーションです。一息つくまもなくセンパイは、関わった生徒の様子について振り返ります。

「生徒が、こう言ってくれたんだけど、どう受け止めて返してよかったか・・・」

悔しさと反省がこもることも少なくありませんでした。

センパイから関わった生徒一人ひとりにコメントを書き記す。

授業「未来の教室」は、総力戦-。

日々、生徒に携わる先生たちがどんな想いで生徒に向き合っているのか。そして、センパイはどのように向き合っていくのか。一つとしてかけても、授業「未来の教室」は成立しません。

授業が終わったら終わり、でもなく、その後も先生方とも生徒の様子について振り返りを行います。

———「普段、部活動の中で面倒見がいい子が、授業が終わってもセンパイと話して考えている姿に驚きました。人知れずに悩んできたことや考えていることを、しっかりと言葉にすることができたようです。その後、私も生徒の話をじっくり聴くことができて、そのきっかけをもらうことができました」

そんな生徒の日常でのちょっとした変化や様子について、先生方から共有してもらいました。

「地元の中学生に、地元とのつながりを。」

そのためには、垣根を越えた総力戦が大切です。
創り上げていく過程において、中学生の成長を見守る先生、センパイ、地域の人々・・・関わるすべての人たちとの対話を通じて、心を開いていくことが必要なのかもしれません。

地元の中学生が地元とのつながりを手にしながら豊かに成長していく富岡を目指す。その過程で、私たち大人自身も互いに関わり、学び、暮らしていく。まだまだ始まったばかりです。

【後日談】授業を届けた数ヶ月経って、センパイのひとりが「お十夜」という地元のお祭りに行ったら、授業で対話した中学生が声を掛けてくれて、お互いに再会を喜んだそうです。センパイ自身も、その後のつながりを実感できたエピソードだったと報告してくれました。

 

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